役に立つかは別として

頭の中にあるゴチャゴチャを出しとけばスッキリするかも

「SHOGUN 将軍」についてアメリカ人に聞かれたら

近々フロリダに行って昔の知人たちに会うことになっている。

そんななか、数日前に、真田広之さんがプロデュース・主演した「SHOGUN 将軍」がエミー賞を史上最多の18部門で受賞して話題になった。

「SHOGUN 将軍」の噂は4月にテキサスに行った時にちょっと聞いていた。ただ、そのときは「ふーん」と思っただけだったし、別に意見を求められたりもしなかったから、それきり忘れていた。

でも、エミーを大量に獲っちゃったとなると、今度アメリカに行ったときには話題として出てきそうだし、日本人としてはどうなの?的な意見も求められる可能性が高い。これは観ておくべきかもなぁ…と思った。

それでちょっと調べたんだけど、結局は観るのをやめた。なので、その辺の心境について書いて頭の中を整理したい。

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「SHOGUN 将軍」はDisney+でしか観れないから、このためにわざわざサブスク加入しなくちゃいけない。だから作品どうこう以前の壁があるんだけど、どうしようかなと思いつつあらすじをざっと読んだら、わざわざその壁を乗り越えて観る気が失せた。

基本的には、豊臣秀吉が亡くなってから関ヶ原の戦いに至るまでの徳川家康のストーリーをWilliam Adams(のちの日本名:三浦按針)絡みの視点から描いたものっぽいんだけど、徳川家康を吉井虎永とし、William AdamsをJohn Blackthrone(日本名は同じ按針)として、あくまでもフィクションという体で描いている。

そして、これフィクションだから!ということで、細川ガラシャ(ドラマでは戸田鞠子)が按針の通訳・ロマンスのお相手という設定になってるらしい。

いや、さすがにそれはナイでしょ……。西洋人男が東洋人女性とロマンスって、まあ西洋人男の妄想をくすぐっていいのかもしれないけど、この時代のああいうお家のお姫様が通訳として駆り出される設定ってフィクションでも無理すぎない?

あと、五大老に石田三成(ドラマでは石堂和成)が入ってるとか*1、五大老の2人はキリシタン大名とか、虎永が五大老全員を敵に回してるとか、なんかフィクションとして設定を変えている箇所にも違和感しかない。

フィクションを盛り込むこと自体はいいんだよ。日本でも想像を逞しくしたフィクションを盛り込んだ時代物のドラマとか映画とかたくさん作ってる。でも、日本では史実的にハッキリしてるところは基本いじらない。史実を変えられたら視聴者は集中して鑑賞できなくなるから、妄想するのはあくまでも史実的によくわかっていない部分に限ってると思う。

まあ、この辺の線を超えてるのがわかってるからあえて登場人物名から変えてるのかもしれないけど*2、だったらストーリーも完全にフィクションにして欲しかった。「秀吉亡き後の天下取り合戦」という大筋と状況をそのままそっくり使うのは日本の歴史を知らないアメリカ人には全然不都合じゃないと思うけど、日本の歴史を知ってる日本人には気が散る要因にしかならないと思う。

それから、あらすじを公式サイトとか

dcam.disney.co.jp

こういうサイトで読んでたときに

eiga.com

目に入ってきた映像・画像からの印象も……本当にごめん、正直に言っちゃうと……結構「コレジャナイ感」があった。

これとか、

鞠子(細川ガラシャ)のメイクが戦国時代のお姫様じゃなくて、完全にムーラン
確認したら、やっぱりメイクさんはアメリカ人だった

こういうところとか、

戦国時代にはもうあんまり被っていなかったはずの烏帽子を被ってる藪重(浅野忠信)と和成(石田三成)

これとか。

どこがどうと言われると困るけどなんか違う気がする甲冑と、どう見てもおかしい石垣

今まであたしは、特に好んで観ることはなかったとは言え「ハリウッドが描く日本」はそういうジャンルとして「ヘンテコで当たり前、むしろそこが面白い」という目線で観てきた。

一番最近だと「ブレット・トレイン」とか。これは日本が舞台で、ブレット・トレインは明らかに新幹線なんだけど新幹線じゃなくて、面白い描写になっている。

でも「今までのハリウッドでの日本の描写に不満があった真田広之さんが、今回こだわり抜いて制作しました」と聞くと、「ハリウッドが描く日本ってそういうジャンルだからね」と言って細部の違和感を楽しんだりスルーしたりはできなくなる。少なくともあたしは。

たぶんね、真田さんは本当にこだわり抜いてできるところはできるところまで全部日本にしたんだと思う。でも、ハリウッドで作ったアメリカ人向けの映画だという自覚も捨てきれなかったんだろうと思うし、アメリカ人スタッフがいる限り、アメリカちっくになってしまうのを防げない部分もどうしてもあったんだろう。

アメリカで日本を完璧に再現するなんて至難の業だよ。

だから、そういう意味では、真田広之さんの努力と成果は高く評価したい。実際、今までのハリウッドが描いた日本よりクオリティが高いのは確かだし。

日本にいたら大役ばかり貰えてたはずのレベルの俳優なのに、アメリカで端役を積み重ねてここまでのし上がってきて、こんなすごい予算を確保してこんなクオリティのものを作ったなんて尊敬でしかない。白人社会で英語がネイティブじゃない人間が下から這い上がるのって、本当マジで大変なんだよ。

……てことで、「SHOGUN 将軍」を観てないあたしが言うのもなんだけど、たぶん真田さんのおかげで「ハリウッドが描く日本」のハードルはかなり上がったんじゃないかな。てか、「ブレット・トレイン」みたいなファンタジー・ジャパン的な「ハリウッドが描く日本」ってジャンルは死んじゃうかもね。どっちかと言うと死なないで欲しいんだけど。

なんにせよ、「ハリウッドが描く日本」ジャンルにはビフォーSHOGUN・アフターSHOGUNっていう線が引かれたよ、これは確か。

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フロリダで誰かに「SHOGUN 将軍」について聞かれたら、こういう感じのことを述べてお茶を濁そうと思う。テヘペロ。

 

 

*1:石田三成は有力大名で構成された五大老ではなくて、秀吉の有能家臣で構成された五奉行の1人

*2:なぜ按針は按針なのかは不明。新しい名前をつけて名前の由来を考え直すのが面倒だったとしか思えないのはあたしだけ?