最近、この本を読んだ。
フィレンツェ市の副市長やイタリア首相のアドバイザーを務めたこともあり、現在はパリで政治学を教えている著者が、イタリアの五つ星運動、イギリスのEU離脱、トランプの選挙キャンペーンなどを例に出しながら、誰がSNSをどのように使って情報操作・大衆扇動しているかを説明している。
SNSを通じて生じる両極化・分断、フェイクニュースや陰謀論、それによる社会的・政治的問題についてはもちろん以前から認識してたけど、今まではどちらかと言うとそういうのに騙されて流れてしまう個人の問題の積み重なりとして見ていたと思う。
でも今回、誰が誰と繋がってどういう組織を作ってどういう戦略を用いているのかという詳しい解説を読んで、そんななまっちょろい話ではないのだと痛感させられた。なんせ、SNSで生産される大量の個人データが、データベースマーケティングのプロたちによって分析され戦略に使われてるというだけでなく、それが事業としてあちこちで組織化されてるレベルなんである。
最近、AIなどを使ったりして詐欺手口がどんどん発達していて、どんなに注意していても引っかかってしまうっていう話をよく聞くけど、大衆扇動の手口もそんな感じで、めちゃくちゃ洗練されてきている。しかも、大衆が一斉に動かされるわけではなく、様々な人たちがそれぞれカスタマイズされた情報によって別々に動かされて結果的に多数派を形成してしまう形なので、外野から見ても扇動されてる側から見ても全体として何が起こっているのかわからない。怖っ。
====
民主主義と資本主義って、いい感じに両立させるのがムズい組み合わせなんじゃないかというのは、前から思っていた。なんでかと言うと、民主主義と資本主義って、理性と欲望みたいな組み合わせだと思うから。
欲望や願望は人を突き動かす大事な動力だけど、それを上手く昇華させて自己を高めるためには、理性や美意識がちゃんと働いていないといけない。
民主主義と資本主義も同じで、資本主義という欲望の塊みたいな動力を人類や社会という集合体レベルで有用に使うには、民主主義のような理性がきちんと働いていないといけない*1。
でも、欲望と理性の両立はムズい。
だって、◯◯しなくちゃいけないとわかってるのにサボっちゃうとか、◯◯しすぎは良くないとわかっていながらやめられないとか、みんな普通にあるよね?個人レベルでそうなのに、社会レベルで欲望と理性のバランスを取るなんてムズいに決まってる。
とは言え、あたしは今までの人類の歴史を見て、ここもなんとか乗り越えられるんじゃないかと楽観視していた。ここ最近までは。
でもここ数年「資本主義に押し切られちゃってるなぁ、ダメじゃん」と思うことが増え、ポピュリズムの仕掛人を読んでからは「やっぱムズいわ、たぶん現時点の人類には無理」と思うに至った。
人類は、少なくとも現時点では、民主主義と資本主義を上手く両立させる技量を持つところまで成熟してない。
====
つい最近、バークシャー・ハサウェイの株主総会でウォーレン・バフェット氏が、資本主義についてこんなことを言っていたけど、
アメリカの資本主義について
— 今村咲 (@saki_imamura) May 3, 2025
荘厳な大聖堂に巨大なカジノが隣接されているようなもので、素晴らしい経済を産んだが、そこから得られる報酬がとんでもない形でばらまかれている
大聖堂がカジノに乗っ取られないようにしなくてはならない
これを見たときもあたしは、「ホントはもうほぼ乗っ取られてると思ってるんじゃないか、でもそんなこと言えないから『乗っ取られないようにしなくてはならない』って言ってるんじゃないか」と感じてしまった。
====
まあでも、よく考えたら、とんでもない事態を引き起こすことなく人類が何かを学んだことなんて、たぶん史上1回もないんだよね。だとしたら、どんな「とんでも案件」が起こるにせよ、頑張って生きるしかないのかもしれない。
いい意味で開き直れたかも。笑
*1:厳密に言うと、人類や社会全体を考えた挙動を全員で取れさえすればいいわけだから、手段としては必ずしも民主主義でなくてもいいのかもしれない……とちょっと思うようにもなってきてるんだけど。