何年も前から、あたしのやりたいことリストには「アイソレーションタンクを試す」があった。
アイソレーションタンク*1っていうのは、高濃度のエプソムソルト水溶液で満たされているタンクで、簡単に身体を浮かせることができる装置。蓋を閉めてライトを消せば音と光も遮断できるから、外部からの刺激を完全に断つことができる。水溶液は人肌温度になっているから皮膚感覚もなくなるそうで、ここに入って浮かんでいると、真っ暗な中で自分の意識だけが浮かんでいるようになるんだとか。
すごくない?
あたしは人の身体や意識のしくみにとても興味がある。だから「真っ暗な中で自分の意識だけが浮かんでいる」なんていう状態になったときに自分の身体や意識がどう反応するのか試してみたいとずっと思っていた。
そう言いつつ今まで実行してなかったのは、単に他のしたいことと比べると優先順位がいつも下の方だったから。でも、ここ最近はいつも身体のどこかが痛くて「ああ全身脱力してリラックスしたい、今こそアイソレーションタンクやればいいんじゃない?」と思うことが多くなってきていた。
……ので、とうとう試してきた。

行ったのはここ。
コスモアイル羽咋に行ったついでに寄った。
そしたら、期待してた感じとはちょっと違っていた。
事前にアイソレーションタンクの体験談をネットでいくつか読んで行ったんだけど、ああいうのって、基本的には素晴らしい体験をした人だけが書いてるんだと思う。普通だったなとか、思ったほどじゃなかったなという感想の人はわざわざ感想を書かない。サイアクだったとか、大変な目にあったという感想の人はきっと感想を書いてると思うから、そういうのがないっていうのは酷い体験をした人がいないっていうことだとは思うけど。
なので、思ったほどじゃなかったな派だった人として、どんな感じだったか書いておきたい。
まず、身体を浮かせるのは簡単だった。水は深くないから普通に座っていられる。なので、座った状態で蓋を閉めて、とりあえずライトはつけたまま身体を横たえてみたら、簡単に浮いた。
でも、そのまま目を閉じたら身体が左回りに流されているような錯覚があった。あれ?身体回ってる??と思って目を開けてみると身体は全然動いてない。この変な感覚が止まるまで数分かかった。
そして、身体が止まったと感じた時点で、全身脱力してリラックスしようとしたんだけど、なんと、できなかった。ガーーーーーン。
なぜって、全身脱力したらなぜか奥歯が自然に噛み合ってしまい、自然に首に力が入ってしまったから。ちょ、ちょっと待って、どゆこと?でも、奥歯が噛み合わないようにしようとすると、口を若干開くように力を入れなくてはならないから全身脱力できない。その後も、なんとか首と口を同時に脱力できないかといろいろ頑張ったけど、結局できなかった。
なんてこったい。
仕方ないから、「真っ暗な中で自分の意識だけが浮かんでいる」は無理だとしても「真っ暗な中で自分の首と口と意識だけが浮かんでいる」くらいにはならないかと、この時点でライトを消してもう一度横になった。
でも、ライトを消したせいで感覚が研ぎ澄まされちゃったのかもしれないけど、人肌だったはずの水の温度が自分の身体より若干温かいことに気づいてしまった。そして、水から出ている部分は相対的に若干涼しい。それがだんだん「出てるところは寒いなぁ、入ってるところは暑いなぁ」という感覚になり*2、だんだん「後ろが暑くて前が寒いと思いつつ、素っ裸で変なタンクに入っている自分」がシュールに思えてきた。瞑想どころの話じゃない。
そんなこんなしていたら、今度は背中からふくらはぎの一面が重く感じるようになってきた。特にお尻とふくらはぎ。身体は浮いているのに一番下になっているところが重いせいで、起き上がりこぼしになったような気分。実際、身体を揺らしてもちゃんと重りがあるところでバランスを取っている感じになっていて、ますますシュール。
それにしても、アイソレーションタンクで浮かんだら重力から開放された感じになって身体が軽く感じるんじゃないかと期待してたのになあ……。全然そんなことはなかった。チーーン。
あと、極めつけだったのは、船酔いみたいな状態になってしまったこと。
水は動いていないし、身体も動いていないはずなんだけど、実際はぷかぷか揺れていたんだろうか。この辺はよくわかんないんだけど、症状は軽い船酔いみたいな感じだった。あと、これは口と首に変な力が入ってたからだと思うけど、頭もちょっと痛かった。
それで、一旦起き上がろうか……と思って起き上がって蓋を開け、時計を見たら、この時点で45分くらい経過していた。そして、蓋を開けたとき外の空気があまりにも爽やかで気付いたんだけど、長時間蓋を閉めてると内部の湿気がすごいことになるね。気持ちが悪くなったのはそのせいもあるかも。
で、60分セッションだったから、外で少し座って気分が悪いのが収まってからもう一度少しだけ浮いてみたけど、終了時の率直な感想は「ダメだこりゃ…」だった。
ただ、興味深かったのは、その晩身体がラジウム温泉に浸かったときのような感じで痛くなり、翌朝はまあまあ軽くなっていたこと。
だから、アイソレーションタンク(というか、たぶん高濃度エプソムソルト水溶液)には、ラジウム温泉と似た老廃物を排出する効果があるんじゃないか。ラジウム温泉には負けるけど。
……てことで、アイソレーションタンクでは、全身脱力することも、「真っ暗な中で自分の意識だけが浮かんでいる」という体験をするのも、個人的には叶わなかった。
とは言え、「そうじゃなくてこうなるのか!」というのがわかったのは面白かったし、今まで頭の片隅に何年もあった「いつかアイソレーションタンクするぞ」という札に大きく「済」と書き込めたのは気持ちよかったし、体験としては有意義だった。
なんでもやってみないとわかんないもんだね。
命なりけり。